HOME > 数学の話題4 > 数学の話題5 > 数学の話題6

その状況に対して複数の妥当な解釈があるのに、妥当な解釈は唯一であると勘違いした場合。

円から点を選ぶ問題

問題:
半径2の円板がある。この円板上から無作為に1点を選ぶとき、その点が中心から半径1以内にある確率を求めよ。

この場合の標本空間としては Ω={選んだ点が中心から半径1以内にある、選んだ点と中心との距離が1より大きい}でいいでしょう(もっと大きな標本空間を想定しても有益とは思えません)。

あとは確率測度を決めればいいのですが、これに関して妥当と思われる解答が少なくとも2つあります。

解1:その点が半径1の同心円板内にあるということであるから、面積の比を考えて P{選んだ点が中心から半径1以内にある}=1/4 である。

解2:その点を極表示して (r,θ) とする。この際中心からの距離のみが問題なので、θ は関係ない。ここで r としては0から2までの数がランダムに選ばれているはずである。その際 r が1以下になる確率は 1/2 である。よって P{選んだ点が中心から半径1以内にある}=1/2 である。

この問題に関しては解1が正解で、解2はそれこそ状況の見誤りだろうと考える人が多いかもしれません。

しかしながらこれはそうでもないのです。曲者は「円板上から無作為に1点を選ぶ」という表現です。これは「えこひいきなしに公平に点を選ぶ」という意味あいの表現です。

もし有限個の点から選ぶのなら「どの点も同じ確率で選ぶ」で問題ありません。

しかし無限個の点から公平に選ぶ場合には、1つ1つの点についてはその選ばれる確率として0を設定するほかありません。

しかし逆に2つの物事に対してどちらの確率も0だからといって、それらの起こりやすさが同等であるとはいえません。

例えば先の円板で、ある特定の直径を決めておきます。この円板上の1点を「公平に」選ぶとき、それがたまたま中心の点である確率も、それが先に決めた直径上の点のどれかである確率も共に0ですが、同じ確率0だからといってさすがにこれらの起こりやすさが同等であるとはいえないでしょう。

であれば「公平」の意味はそれぞれの場合にあわせて、何らかの形で定義されなければならないことになります。

そういう意味で解1はもちろん、解2もそれなりの形で「公平」を定義した結果であるといえます。

同じ問題に対して、正しいが相反する複数の解答が得られたというのであれば、それはパラドックスです。しかし上記はもとの問題に曖昧さがあったので、それに対して妥当と思われる2つの解釈をしたその結果が違っていたというだけです。パラドックスは起きていません。

有限集合から「公平」に元を選ぶということなら、先に述べたように「同じ確率で選ぶ」というのが唯一妥当な解釈になるでしょう。

しかし無限集合の場合はそのような唯一妥当な解釈はないのです。

さらにはその設定に、一見可能に見えて実は不可能な要素が含まれているために、そのような妥当な解釈自体できない問題もあります。次にそれをお話します。


前へ 1 2 3 4 5 6 次へ